筐体、板金部品を設計する際、どんな鋼板材料を選定しますか🐯?
近似の図面を探したり、先輩を見習うのも良いですが、それが正解とはかぎりません。
めっき鋼鈑の目付量を指定しておらず、耐食性にバラツキが発生したことがありました。
成形性の指示が足りなくて試作絞りはOKなのに、量産できないことがありました。
製品仕様を満足できる仕様を詳細に指示しなければ問題が発生する恐れがあります。
必要十分条件の指定が大切です。
また、選定根拠も説明できた方が良いですよね🐯。
ここでは、鋼鈑材料の特徴と選定の概要について説明します。
筐体、板金部品に使用する代表的鋼鈑
分類 | 種類 | 代表的 材料記号 | 最低引張強さ (MPa) | 比重 | 縦 弾性係数 |
鋼板 | 熱間圧延軟鋼鈑 冷間圧延鋼鈑 一般構造用圧延鋼材 | SPHC-P SPCC-SD SS400 | 270 270 400 | 7.85 7.85 7.90 | 206 |
表面処理鋼板 | 電気亜鉛めっき鋼鈑 溶融亜鉛めっき鋼鈑 Zn+AL+Mgめっき鋼鈑 | SECC SGCC ZAM | 270 | 7.85 | 206 |
ステンレス鋼鈑 | オーステナイト系 ステンレス鋼鈑 フェライト系 ステンレス鋼鈑 | SUS304 SUS430 | 520 450 | 7.93 7.80 | 197 200 |
使用場所から鋼鈑材料を選定
●屋内や屋外等の使用場所と塗装の有無(防錆処理の代表)により錆び易い環境か判断し、
使用場所から見て使用できる鋼鈑材料例を挙げます。
使用場所 | 塗装の有無 | 錆び易い環境か? | 通称 | 鋼鈑材料例 |
屋内 | 有 | 錆び難い環境 | 酸洗 | SPHC-P 熱間圧延鋼板 |
屋内 | 有 | 錆び難い環境 | 磨き | SPCC-SD 冷間圧延鋼板 |
屋内 | 無 | 錆び難い環境 | ジンク | SGHC,SGCC 溶融亜鉛めっき鋼板 |
屋外 | 有 | 錆び易い環境 | ボンデ | SECC,SEHC 電気亜鉛めっき鋼板 |
屋外 | 無 | 錆び易い環境 | ZAM | MSM-HC DZC90 Zn+AL+Mgめっき鋼鈑 |
屋外 | 無 | 錆び易い環境 | ステン ヘアライン | SUS304-HL ステンレス鋼鈑 |
屋外塩害 地区 | 有 | とても 錆び易い環境 | ステン 塗装 | SUS304-2B ステンレス鋼鈑 |
薬品食品 工場 | 無 | 剥離しない | ステン 鏡面 | SUS304-#400 ステンレス鋼鈑 |
代表的鋼鈑材料の特徴
●代表的鋼鈑材料の特徴及び使用上の注意点を記載します。
通称 | 記号 | 1.特徴 2.製造法 3.用途/使用上の注意 | 代表板厚 |
酸洗 | SPHC-P | 1.安価 2.連続鋳造を経て熱間圧延後酸洗いをした板材 3.強度を要しない使用に適している | 1.6 2.3 3.2 |
磨き | SPCC-SD | 1.板厚のバラツキ小、表面平滑性、外観良 2.SPHCを冷間圧延し焼鈍して応力除去した板材 3.意匠部品、高精度なプレス部品 | 0.5,0.8,1.0 1.2,1.6,2.0 2.3,3.0,3.2 |
ジンク | SGCC SGHC | 1.SECCより耐食性が高い(めっきが厚い) 2.SPCC,SPHCに溶融亜鉛めっきを施した板材 3.屋内なら無塗装で使用可 無塗装時、怪我防止に切断面のバリ処理必要 鋼鈑上への塗装は密着性が悪く剥離し易い | 1.0 1.2 1.6 2.3 3.2 |
ボンデ | SECC SEHC | 1.SPCCより耐食性が高く塗装可(めっきが薄い) 2.SPCC,SPHCに電気亜鉛めっきした板材 3.塗装した屋外使用品に適している 塗装の下地処理を省くことができる | 1.0,1.2 1.6 2.3 3.2 |
ZAM | MSM | 1.耐食性が高く屋外でも無塗装で使用可能な板材 2.SPCC,SPHCにZn+AL+Mgを合金めっきした板材 3.切断面は錆びが生じる。但し錆び拡大は極小 溶接時ガス発生、塗装の密着性は悪い検討必要 | 1.0,1.2 1.6 2.3, 3.2 |
ステン ヘアライン | SUS304 HL | 1.光沢をなくし艶消しとなり高級感有 傷が目立たない 表面に不動態被膜を形成し錆から保護、耐食性良好 2.HLは単一方向に研磨し、細く長い筋目を付けた仕上げ方法 3.意匠性を生かすため生地又はクリアー塗装して使用する SUS304は錆び難いが、もらい錆、すきま腐食が生じる 熱伝導率は鉄の1/5で、溶接は熱がたまり歪が発生し易い | 0.5 0.8 1.0 1.2 1.5 2.0,3.0 |
ステン | SUS304 2B | 1.板厚のバラツキ小、表面平滑性、外観良、 2.冷間圧延し焼鈍して応力を除去した板材 3.屋外や湿気のある場所での使用 表面処理をする前段階の加工用素材、塗装する前の素地 細かな擦り傷、色ムラがある | 0.5,0.8 1.0 1.2 1.5 2.0,3.0 |
ステン 鏡面 | SUS304 #400 | 1.ほぼ鏡面、汚れが付着しにくい 2.#400で研磨、 3.薬品・食品工場で生地で使用 |
鋼鈑材料のコスト目安
●材料コストは、材料費変動、仕入れ先、定尺寸法、使用数/ロットによって大きく変わります。
表4に目安を示します。
高いか安いか程度の目安にし、見積もりしてコストを算出してください。
通称 | 記号 | 価格の目安 |
ミガキ | SPHC | 100とする |
磨き | SPCC | 110 |
ジンク | SPGC | 130 |
ボンデ | SECC | 120 |
ZAM | MSM | 150 |
ステン | SUS304-2B | 450 |
おまけ 「店売り」と「紐付き」とは
鋼板材料の売買方法には「店売り」「紐つき」があります。
●店売り
鋼板商社が鉄鋼メーカーから鋼材を購入して在庫し注文に応じて最終ユーザーに販売します。
価格は相場や相場により変動します。在庫は、汎用性が高く、流通量の多い薄板が多いです。
金物屋におろされ小口購入できます。
●紐付き
鉄鋼メーカーと最終ユーザーと直接価格交渉して取引する方法です。
鋼板メーカーから出荷される時点で最終ユーザーが決まっています。
取引規模が大きく、中間に商社が1~2社入ります。
一定量購入の縛りがありますが、店売りに比べ価格変動が抑えられ安価に入手できます。
継続的に生産する商品に特注品に近いような材料指定が可能です。
店売り、紐付き どちらもメリットがあります。目的によって使い分けてください。
まとめ 鋼鈑選定のヒント
●鋼鈑選定に当たっては、使用場所、鋼鈑の特徴を考慮して選定してください。
●材料単価からの選定
材料単価は、SPHC → SPCC → SECC → SUS304 の順で高くなる。
例1)屋内使用、塗装有、意匠不要の部品は SPHC を選定する。
例2)屋内使用、塗装有、意匠優先の部品は SPCC を選定する。
例3)屋外使用、塗装有の部品は、耐食性を考慮し SECC を選定する。
例4)塩害地区は、錆び対策コストも考慮し SUS304-2B+塗装 を選定する。
例5)屋外使用、意匠不要、一部赤錆可、コスト優先なら ZAM、SGCC を選定する。
●防錆性能からの選定
屋外使用の耐食性を有する塗装部品は、SUS304-2B、SECC を選択する
SECC使用の場合は下塗りをエポキシ塗料にするなど防錆性能を考慮する。
最後まで見ていただき ありがとうございました。