配電盤は、保護と美観を目的に工場ラインで焼付塗装されます。
保護・・・塩害、酸性雨、紫外線
美観・・・色彩、模様、光沢、 外観のイメージ向上
その他・・・遮熱性、耐熱性、耐油性、
工場の焼付塗装は、設置現場の自然乾燥の塗装と比べて塗膜性能が高く安定しています。
配電盤類の塗料について説明します。
配電盤類の塗装工程
配電盤類は、主に下記の様な塗装工程で塗装されています。
脱脂・・・・・・溶剤脱脂やアルカリ脱脂が主に行われます。
スプレーで行うもの、浸漬するものがあります。
化成被膜処理・・塗膜の密着性や耐食性を上げるために化成被膜(リン酸塩皮膜)を形成します。
スプレー処理、浸漬処理があります。
下塗り・・・・・塗料をスプレーする静電塗装や塗料に浸漬する電着塗装等が行われます。
上塗り・・・・・塗料を噴霧する溶剤塗装や粉体塗装が行われます。
下塗り塗料 の 種類 と 特徴
下塗塗料には「素地や上塗り塗料との密着性」や「鉄素地の防錆力」が要求されます。
防錆力は「付着性、耐湿性、耐塩水噴霧性」などの性質に関わり、エポキシ樹脂が優れています。
配電盤によく使用されるエポキシ樹脂塗料を説明します。
●エポキシ樹脂カチオン電着塗料
<利点>
・被塗物が陰極であるので電着時に被塗物から金属イオンが溶出しません。
従って、化成被膜がほとんど溶出しません。化成被膜処理が生かされ高耐食が得られます。
・使用するポリアミド樹脂は腐食抑制材として働き、平面部の防錆力が高いです。
・浸せきにより塗料が隙間に入り込み、製品の内面などでも非常に高い防錆力を発揮します。
・ステンレス鋼材素地にも適しています。
<欠点>
・被塗物を塗料に浸せきする槽と通電可能な設備を必要とします。
・塗料は保温と24 時間攪拌が必須で管理にも手間を要します。
・焼付け温度は高い。
●一液焼付け硬化形エポキシ樹脂プライマー
・エポキシ樹脂は、じん性に富み、硬度も高く付着性が良い。
・素地に対する強固な密着力と硬度が得られます。
・化学構造的に安定で耐薬品性特にすぐれ、耐アルカリ性に高く耐熱性も高い。
・140 ℃程度以上の焼付け乾燥が必要です。
・焼付けによる変色が生じる恐れがあります。
・ステンレス鋼材素地や非鉄金属素地にも適しています。
●エポキシ樹脂プライマー
・塗装前に2液を混合し、2液の硬化反応前に塗装します。
・膜厚によってはエポキシ樹脂カチオン電着塗料を超える防錆力を発揮します。
・メラミン樹脂系の2 倍ないし2 倍を超える厚塗りが可能です。
・上塗りはポリウレタン樹脂塗料が一般的です。
●エポキシ樹脂粉体塗料
・粉体塗料用のスプレーガンによって塗装します。
・100 μm を超える厚塗りが1 回の加熱で可能です。
・最低でも150 ℃程度の高温焼付けが必要です。
・非常に防錆力が高い。
●有機ジンクリッチプライマー
・エポキシ樹脂プライマーに大量の亜鉛末を混合した犠牲防食塗料です。
・エポキシ樹脂プライマーを中塗り、ポリウレタン樹脂塗料を上塗りする工程が一般的です。
・亜鉛含有量が同量とすれば,亜鉛溶射や亜鉛めっきに匹敵する防錆力が得られます。
上塗り塗料 の 種類 と 特徴
上塗り塗料には「下塗りとの密着性」と「耐候性、硬度、耐水性、耐薬品性、耐摩耗性、耐溶剤性など表面に作用する耐久性」が要求されます。
最近、ポリエステル樹脂粉体塗料が配電盤類によく使用されます。
◎:優れている 〇:良好である △:やや劣る
● ポリエステル樹脂粉体塗料
・最も一般的な粉体塗料です。
・ほぼ無溶剤のため環境、労働衛生、防火共に問題が少ない。
・塗装時に流れ不良の心配がすくない。
・静電塗装によるため塗料の無駄が少なく、塗装時の飛散塗料を回収し、再使用もできます。
・液体塗料の2 倍を超える塗膜厚が1 回の焼付けで得られます。
・硬度、耐摩耗性、耐水性ではメラミン樹脂塗料や焼付け硬化形アクリル樹脂塗料を上回ります。
・小ロット、短納期での塗料製造は難しく、調色対応も難しい。
● 焼付け硬化形アクリル樹脂塗料
・メラミン樹脂塗料に比べ、耐候性、硬度、耐水性、耐薬品性、耐摩耗性、耐溶剤性が優れた
液体塗料である。
・価格がメラミン樹脂塗料よりやや高く,焼付け時に発生する臭気が消えにくい。
・作業性はメラミン樹脂塗料とほぼ同一である。
・エポキシ樹脂プライマー下塗り,有機ジンクリッチプライマー下塗りには適さない。
● ポリウレタン樹脂塗料
・ポリオールとイソシアネート化合物 の反応を利用した2 液形液体塗料で,常温で硬化します。
強制乾燥も可能です。
・耐候性に優れています。
・下塗りに防錆力の強いエポキシ樹脂プライマーが使用できます。
・つや調整時につやの均一性にやや難があります。
●メラミン樹脂塗料
・かって、配電盤類用液体上塗り塗料の主流でした。
・安価でエアスプレーによる作業性がよく,焼付けで硬化乾燥するので製品運搬がしやすい。
・色やつや調整の自由度が大きく、つや調整時のつやの均一性がよい。
・薄塗りが可能で外観を向上できる。
・指触乾燥が速いなど極めて多くの特長をもつ。
・耐候性、硬度、耐水性、耐薬品性、耐摩耗性は平凡ですが、耐溶剤性はややよい。
・エポキシ樹脂プライマー下塗り,有機ジンクリッチプライマー下塗りには適さない。
・JIS K 5651 に規定されたアミノアルキド樹脂塗料はメラミン樹脂塗料である。
まとめ
配電盤類は工場ラインで塗装されます。
工場ラインで多く用いられる塗装工程は、脱脂→化成処理→下塗り→焼付→上塗り→焼付です。
屋内に設置される配電盤類は耐食性、耐候性に気を遣う必要は少ないです。
屋外に設置される場合は、耐食性、耐候性にすぐれた
下塗り:防錆性能の高いエポキシ樹脂カチオン電着塗料
上塗り:溶剤を使用しないポリエステル樹脂粉体塗料
をお勧めします。
<参考資料>
JSIA-T1020 配電盤類の塗装技術