電子機器は電磁波を発生させます。
樹脂は電磁波を透過します。
樹脂製筐体に電子機器を収納すると電磁波が漏れて周囲に迷惑をかけてしまいます。🐯
導電性塗料を樹脂筐体内側に塗布し、電磁波透過を防止する方法を説明します。
電磁波に対する規制
多くの電子機器から発せられる微妙な電波は、お互いに影響してテレビ画像の乱れやラジオの雑音、コンピューターの誤動作など他の電子機器の動作を妨害し影響を与えることがあります。
この妨害し影響を与えるノイズを与えないようにVICCの規制が設けられました。
一般家庭や事務所などで使用される機器には「VCCIクラスBへの適合」が求められます。
導電性塗料概要
導電性塗料は、塗料に導電性フィラー(添加物)として銀、銅、ニッケル等の微粉末を混ぜ込んだものです。通電しない樹脂の表面に塗装することにより電気を流すことができるようになります。
●導電性物質が電磁波を反射する性質を利用して電磁波を遮断します。
●塗装は高額な設備を必要としないので、小ロットでも対応可能です。
導電性塗料の選定
1.塗料の検討と選定
1)導電性の耐久性はどうか?
(長期間導電性を維持できるか?)
2)樹脂への密着性は良いか?
(PS、ABSは密着良好だが、PPは悪い。量産前に実験確認が必要)
3)塗装性は良いか?
(2液硬化塗料は扱いが難しい。1液の方が作業性が良い)
4)乾燥温度は低いか?
(樹脂が変形しない60℃~80℃で早く乾燥させたい)
⇒ 塗料は、一液/常温乾燥/アクリル樹脂 が適しています。
2.フィラーの検討と選定
●ニッケル系は導電性と価格のバランスがとれています。
導電性は、銀>銅>ニッケルの順
ニッケルは導電性が悪いため銅、銅・銀と比べ厚く塗る必要があります。
ニッケルを高温又は高湿で使用する場合、表面抵抗の上昇について確認が必要です。
●銅系は酸化しやすい
●銀は高価です。
●カーボンは低価格ですが導電性が悪いです。
金属 | 比導電率% | 密度 | 価格比 |
銀 | 106 | 10.50 | 84 |
銅 | 100 | 8.93 | 1 |
ニッケル | 24 | 8.85 | 2.5 |
⇒ フィラーは、ニッケル系が良い
3.シールド効果の選定
一般家庭や事務所などで使用される場合「VCCIクラスBに適合する」が求められる。
⇒ 表面抵抗 1Ω/sq以下 を選択する
「参考 シールド効果と抵抗値の関係」を参照ください。
塗装工程の注意点
塗装工程では以下の点に注意してください。
1)樹脂への塗装の場合、乾燥温度に注意する。
乾燥温度が高すぎると変形の恐れ、表面抵抗値の上昇の恐れがあります。
2)フィラーが重く沈殿し易いので、塗装前に攪拌させる。
3)塗膜厚の管理方法を検討する。
電磁膜厚計で塗膜厚の測定ができませんが、導電性は塗膜厚に影響を受け重要です。
→サンプルシートを被塗装品に貼り付け塗膜厚をマイクロメータで測定する。
→試し塗りし、作業内容と膜厚を測定し、工程と膜厚の関係を把握する。
→最低膜厚を設定する。
参考 シールド効果と表面抵抗値
40dbのシールド効果があれば電子機器の95%以上に適応可能と言われている。
= VCCIクラスBに適合する
<導電率の良好な表面抵抗値>
1)膜厚が薄く導電率の良好な表面抵抗と体積抵抗の間にはRSxt=RVの関係がある。
体積抵抗RⅤ=0.005Ωcm、膜厚t=50μ(5×10-3cm)の表面抵抗RSは、
RS=0.005/5x10-3=1Ω/sq となる。
なお、1cm角の正方形の相対する辺を電極とする二つの電極間の直流抵抗を
表面抵抗という。「Ω/sq」「Ω/口」で表す。
2)膜厚50μで比抵抗0.005Ωcmのシールド効果は、
100MHzで54.2db、1000MHzで46.8dbとなる。
3)よって、表面抵抗1Ω/sq 以下ならば40db以上の効果を得られる
→表面抵抗1Ω/sq 以下ならばVCCIクラスBに適合する。
参考 塗装の密着性
「UL746C 37A 密着性の要求」は、導電性塗料の性能を評価する目安となります。
EMIシールド目的で、プラスチックとシールド材の長期間使用を評価します。
<試験方法>
①一時テスト23℃xRH50%x40H
②長期高温 85℃ x56日間
③長期耐熱 35℃xRH90%x56日間
④サイクルテスト(以下を3サイクル)
85℃x1h→23℃xRH50%x1h→ -29℃x1h→23℃RH50%x1h
<評価>
①~④各碁盤目試験後、5%剥離まで合格
UL合格を参考に評価するか、自分で使用条件に適合した耐久性を評価する。
まとめ
●導電性塗料を樹脂筐体内側に塗布し、電磁波透過を防止するには
塗料は、一液/常温乾燥/アクリル樹脂
フィラーは、ニッケル系
表面抵抗は、1Ω/sq以下 を選択する
●参考
写真引用:プラスコート株式会社 ホームページ
参考: 藤倉化成株式会社 ホームページ
以上 最後まで見ていただいてありがとうございました。